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精神分析

『失踪の社会学 親密性と責任をめぐる試論』

社会学者の岸政彦さんの著作にであったおかげで社会学の本を読むようになった。研究会で社会学にもいくつかの分類があると教わった。今回はいつも読んでいる領域とは少し違う社会学の本を読んでみた。

『失踪の社会学 親密性と責任をめぐる試論』中森弘樹(2017,慶應義塾大学出版会)は失踪という事態?出来事?あり方?を通じて、私たちが当然のように大切なものとする「親密な関係」に私たちを繋ぎ止めるものを浮かびあがらせる丁寧な研究の書である。

著者は最初に「死ぬことと消えることはいかなる点で異なるのだろうか」という問いを掲げ、失踪が自殺を代替しうるか、だとしたら失踪に含まれる意味とは、そこにおける他者とは、責任とは、倫理とはということに考えを巡らしていく。第6章 失踪者のライフストーリーでは、<失踪>経験者のライフストーリーが2例取り上げられる。つまり今は失踪していない人たちの言葉を聞くことができる。「自殺中に電話をしてきた友人」という表現なども興味深い。失踪が生と死の中間にあるとシンプルにいうこともできるかもしれない。失踪に至るまで、あるいは失踪中、失踪後という物語を作るとき、そこには親、配偶者、家族、友人、周囲、世間といった他者との関係が自然に立ち現れてくる。

この数ヶ月、コロナが可視化した「他者」や「関係」に対する人の態度は以前からその人に潜在していたあり方だろう。この本は今読むとなおさら逃れようのない他者を感じる。その他者とともに、あるいは別々に(逃れようがないとしても)、どう生きていくのか、そのプロセスに失踪、あるいはそれに近い出来事が生じるとしたら、そのあり方とはいかなるものか、これらの問いに対する社会学者の語りは他者との間にこころを見出そうとする私のような臨床家の語りとは重なるが異なる。だからこそ読んでよかった。臨床家がともすると陥りがちな二者関係の押し付けについて考えるための補助線をもらったと思う。