農林水産省の「にっぽん伝統食図鑑」というWebサイトに出会った。ユネスコ無形文化遺産に登録されている和食だがそれらの情報を集約する仕組みは作られてこなかったそうだ。このサイトは、伝統食の保護・継承、伝統食の認知拡大、伝統食の輸出拡大の推進の3つを目的として伝統食のデータベースとして作られたようである。「伝統食」の基準は、加工食品であること、入手ができること、地域性があること、歴史性があること、伝統的な製法または保存技術を用いていること、が必須とのこと。その基準でいったら日本全国どこにでもありそうなものだがそうでもないらしく、掲載されている県は少ない。石川県はさすがに多いが、大きな地震の影響は伝統食にも現れるだろう。たとえば奥能登の国指定文化財名勝、石川県輪島市白米町にある棚田、白米千枚田。このWebサイトのエリア検索で「石川県」を選択すると紹介文の最初の方に出てくる。ここも大きな被害を受けた。神戸新聞が記事にしていた。
能登輪島白米千枚田のWebサイトでその美しい姿を見ることはできるがもとは1004枚の田んぼがあったそうだ。地震のあと、その維持管理を担う「白米千枚田愛耕会」の努力によって今春には、その約1割、120枚で作付けが行われた。これを愛耕会の方は「奇跡の120枚、感謝の120枚」と話す。
「伝統」というからには守られるべきものという意味を含むと思うが加工される以前に基盤があること、その基盤には人と土地の歴史があること、今回、神戸新聞がここを取り上げていることにじんとくるものがあった。稲刈りは今月末だという。先日、青々と稲穂が広がる景色を目にした。とてもきれいで田んぼごとに色が少しずつ違うように見えたのが不思議だった。どの地域もそうだが、被害を受けた土地に速やかで長い支援が届きますように。せめて侵入的ではない眼差しが向けられますように。
食事や料理のことで少し考え込むようなことがあると三浦哲哉『自炊者になるための26週』を読んだりする。この本は1週に1章読み進めるペースで書かれていて2週目が「においを食べる」で「米を炊く」から始まる。混じり合う味覚と嗅覚の記憶はたしかだ。米作りに従事されている方が何百というサンプルの中から地元の米を当てることができるという話には驚きつつ納得した。知っているだけに失われたものの大きさに打ちのめされたりする場合もあるだろうか。知っているからこそそれを頼りに先を見据えることもできるだろうか。それぞれが個別的でどちらともいえない体験の積み重ねを生きているに違いないが、大きな出来事があるとそこで揺らぐこと自体、不安を生じさせるかもしれない。どうか穏やかな時間ももつことができますように。良い1日でありますように。