深夜、寝る前に窓を少し開けたらひどい湿気と熱さを感じてすぐに閉めた。あの気持ちのいい風はどこへいってしまったのだろう。早朝、目を覚ましてからも雨の音をずっと聞いている。仕事には行けるだろうけど来る方も大変だろう。私は訓練に入る前に別の分析家のところへ通っていた。あれは台風だったか、断続的にものすごい雨風の日があった。どこかへ継続的に通うというのは仕事と同じでリズムであり習慣なので慣れていない場所へ行くよりは方法を考えやすい。お金を払って休んでもよかったのだが出向いてみた。雨の合間を縫って少し早めに近くまで行き店に入った。居酒屋だった。この天気ではくる人もいなかったとみえて「お酒飲まないのだけど」という私に快く応じてくれた。ソフトドリンクと何かをつまんでおしゃべりしているうちに雨が弱まったので分析家のオフィスへいったらきたことにびっくりされた。私はその日の自分の楽観的で能動的な態度について話したと思う。そういうのは日替わりどころか瞬間瞬間で違ってくるので面白い。あの居酒屋はしばらくしてなくなった。そこの通りに当時あった店は今はほとんどない。向かいの区画には以前からの店がそこそこ残っているが。私はその後、別の街で開業しているIPAの訓練分析家のところに通い始めかつての分析家もあのビルから同じ街の別の場所へ引っ越した。
私は2017年に開業してもうすぐ満7年。最近の自然とどう関わっていけばいいのか悩むことが多い。悩んだところでこのまま悩みながら同じことを続けていくだけなのだが考えておくと最低限の対策は取りやすいと思う。料理など毎日の家事をしていると足りないものがいつも意識にのぼっているのと同じ。優しさや思いやりも生活を積み重ねるところからだよなあと昨日漠然と思った。
昨日の朝ドラ『虎に翼』で父の役割を果たせてこなかった航一が娘ののどかに「何が食べたい?」と聞く場面があった。このドラマは戦争前の食卓から仲間との饅頭作りから戦後の深刻な食糧難からカフェでの名物や郷土料理、伝統の味など一貫して食事を通じた人との関係を描いてきた。「美味しいもの食べに行こうか」「甘いものでも食べに行く?」「ごはんにしましょう」などのセリフも多くあったと思う。脚本の吉田恵里香さんがSNSにあげるイヤリングもずっと食べ物だ。私の仕事で食といえば診断でいえば摂食障害となるさまざまなエピソードについて聞くこともあるし、美味しいお店の話を聞くこともあるし、毎日ごはんを作ることの負担やそうしないと襲ってくる罪悪感や実際の暴力について聞くこともある。主人公の寅子が「十分に子供をやらせてもらった」と言っていたが彼女の食事の場面だけ追っても満たされる、あるいは満たしてあげたいという思いの中にいつもいる、そこで自然に育っていく、そういう描写だったように思う。航一の「何が食べたい?」は子供の欲望を汲み取るのに最も適した一言のように思えた。
今日も雨をどうにかしのげますように。被害が出ませんように。すでに被害が出ている地域にできるだけ早く手厚い援助が届きますように。