袴田さんの再審開始確定はよかった。でもよくない。こんなに長い間、心身を拘束して、身の回りの人の生活だって変えて、もう想像を絶する。姉の袴田ひで子さんももう90歳。お二人が生きておられたのは本当によかったと思う。人が人を裁きコミュニケーションの場を奪い尊厳を奪う。簡単にできてしまう。本当に恐ろしいことだと思う。世田谷事件の遺族である入江杏さんは未解決殺人事件の遺族として時効撤廃とともに冤罪防止を願っていたのでほっとしたとツイートしていらした。この事件のことも忘れることができない。あの辺は土地勘があるからなおさらだった。高橋ユキ『つけびの村 山口連続殺人放火事件を追う』をまた手に取りそうだ。人の心なさ、恐ろしさ。尊厳ってなんだろう。尊厳を傷つけられたときに生じる仄暗かったりドロドロした重たい闇のような感情、理不尽に晒され消耗しながら冷たく残酷な鬼と化していくこころ、知らない人はいないだろう。そんなものは自分にはないとしれっと軽薄に過ごしている人もたくさんいるだろうけれど。それが心なさ、恐ろしさというものだよ、とそれらを投影された人が感じ、支えのなかでこなしていければいいが。
毎日毎日本当にひどいことがたくさん起きている。でもそれだけではない。袴田さんを支え続けた人たちの涙、笑顔。どれだけの想いを抱えてきたのだろうか。全く想像がつかない。この複雑で残酷な毎日を生き続けていくことの困難を否認しなければ訪れるかもしれない希望を身をもって教えてくれる人たちに少しでも早く穏やかな日々が訪れますように。こう書くだけで本当にそれを穏やかといっていいのか、あまりにひどくないか、という気持ちに再び覆われるが、彼らがそう感じられるならそうなんだから何も知らない他人が再びそこに侵入するようなことはあってはいけないのだろう。
今日の東京は曇りみたい。明日は早くも花散らしの雨らしい。毎年そうだ。日々が過ぎる。季節が巡る。さまざまな人とさまざまなことに思いをめぐらせながら今日も一日。みなさんもどうぞご無事で。