高橋ユキ『つけびの村 山口連続殺人放火事件を追う』(小学館文庫)を購入。渋谷駅を出てすぐの大盛堂書店でサンバイザー広告を出していると呟かれていたので頻繁に前を通るのに最近寄っていなかった大盛堂へ。半蔵門線を出てこの階段でいいのかなといくつもある地上への階段を適当に登ったら地上に出るなり大盛堂。「おお!これがサンバイザー広告!」と結構感動した。小さいのに写真でみるよりずっといい感じにヴィヴィッドだった。本自体は文庫の中でもかわいらしいサイズ。レジ前に積んでくれていたのですぐに手に取れた。店員さんがサイン本かどうかも確認してくれた。「しおりも入っていますか」とおずおず聞いてしまった。入っていると知っているから大盛堂にきたのになんだか不安になってしまった。
noteにも書いたけどノンフィクションは伏線回収とか不可能なので好き。現実の複雑さ、解決しなさがそのまま描写される。特にこの著者の書き方が好き。変な興奮も強い主張もなくごく普通の感覚とスピードで真相を追う(という表現はしっくりこないのだけど)感じがすごいと思う。私はニュースレター「高橋ユキの事件簿」も購読しているが、noteでも本書が書籍化するまでの流れも読めるし、弁護士ドットコムの連載とかいろんなところで著者の記事は読めるので本書とあわせてぜひ。主に裁判の傍聴席から、そして本書のように現場から、裁く目とは異なる視点で事件を丹念に追う著者の作業はSNSとかでサクッと記事や写真を拾って上から目線でなにかいう作業とも呼べないようなお手軽作業とは全く異なりとても貴重だと思う。そこでは実際の人がきちんと生きている。この本の現場は山口県周南市。小さな小さな村で起きた殺人放火事件。私は今回文庫化にあたり著者が再び現場を訪れ加筆した新章から読み始めた。現場へ行きたいと思った。事件の現場としてではなく。当たり前だがどんな土地の生活にも歴史がある。小さな村で多くの人が殺害されたあとも生活は続いている。今まさにこの瞬間も。
私は学会や旅で日本全国行っているので事件の現場を訪れることも多い。あえて訪れる場合もあるし、偶然犯人と同じルートをいっていたという場合もある。当事者ではない自分がその生々しい事件が起きた後の場所に立つときの、解釈できない出来事にとどまらざるをえないあの感触は独特だ。著者はそこにただとどまることをしない。真相を知ろうとする。自分の生活を維持しつつ取材に向かう著者の胆力のみならず現場や当事者に対する配慮ある距離感にもじんわり様々なことを感じさせられるこの一冊、少し不気味で(先入観のせいかも)美しい著者お手製のしおりと共に手に取ってみるのはいかがだろう。私はおすすめしたい。