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精神分析

きのうのあまだれにみみをすます

オフィスからそう遠くない街を歩いていて、頭よりずっと高いところから地響きするような大きな音がした。雷だ。予報通り。降ってくるかな、と空を見上げる。視界の前方には水色の空に真っ白の大きな雲が浮いているが真上の空はのっぺりしたグレーになっていた。あっ。手の平をひらいて待つ。あれ?降るのか降らないのかはっきりしない空を尻目に私は建物の中へ入った。

夜、また雨を感じた。というか雨の音を。でも身体のどこにも雨が触れた感じがしない。傘をさしたら降っているかどうか確認できるだろう。さっき後ろの人の影だけ見たがその人も傘をさしていなかった。その人はいつの間にかどこかの角を曲がったようだった。そっと手の平を広げた昼間のことを思い出して今度は前方より少し上空に突き出すように腕を伸ばして手を広げてみた。やはり感じない、雨を。結局雨の音を感じるだけで雨に触れないまま駅に着いた。昨日は一日傘を使わなかった、濡れた道路はみたけれど。

東京にも雨が降る。ポツリと地面が濡れたら少し早足になる。部屋に入って窓を開けて外をながめる。世界がどんどん濡れていく。昨日は大きな水溜まりにうつった剪定された夏の紫陽花を撮った。

今朝は昨日より少し明るい。スマホで天気予報のアプリを開いたらしばらくグレーのままだった。もう一度開くと「雨 のち くもり」とでた。雫マークの隣に60%と書いてある。相変わらず気温は高いらしいがそれでもかなり秋めいてきたように感じる。少しぬるくなった冷たい麦茶を飲んで果物を食べた。麦茶が温かいお茶に完全に切りかわる頃はきっと確かに秋だ。朝の果物を楽しみに店先をうろうろする時間も増えるだろう。

さあ、今日も人と会い話を聞く。耳をすます。言葉の水分量はどんなだろう。そしてそれはどんな響きがするだろう。耳をすます。谷川俊太郎の詩を思い出した。「みみをすます」。大好きでオフィスのWebサイトを作ったときに最初に載せた詩。縦書きの詩だし雨のように縦書きで書きたいけど横書きで。冒頭だけ。

みみをすます
きのうの
あまだれに
みみをすます