カテゴリー
精神分析、本

TAILPIECE

なんともいえない空の色。前の家の屋上が濡れている。昨晩は雨降ったっけ?帰宅したときは降っていなかったような気がするけどうろ覚え。傘も持っていなかったと思うのだけど。うろ覚え。

いろんなことがぼんやりしていく。あんなにいつも心を占めていたものも曖昧に解体されていくよう。軽い頭痛と眠気。このくらいならちょうどいい。はちみつ紅茶で身体が熱くなってきた。身体が上手に狂気を捌いてくれてるのかしら。

この前もここで引用したのだけど小児科医で精神分析家のウィニコット(1896-1971)の本に『遊ぶことと現実』(岩崎学術出版社)というのがあって、原著Plaing and Reality(1971)と一緒に読むのが常。本の最後はTAILPIECEで閉じられる。なんか素敵な単語と思って日本語を見ると「終わりに」と訳されていた。オンラインの辞書で調べると「書物の章末・巻末の)装飾図案」とか。これ素敵と画像で調べると面白い装飾がたくさん出てきた。weblioで調べると「尾片、尾部(の付属物)、(弦楽器の)緒(お)止め板、(書物の)末章余白のカット」とある。画像だとギターの弦を止める部分がたくさん出てくる。書物だと単なる「終わりに」ではなさそう。ちょっと余ったから何か書いたよ、みたいな感じかな。他の本はどうなっていたっけ。オックスフォードのThe Collected Works of D. W. Winnicottではどうなっているのかな。後で見てみよう。多分、ウィニコットとtaleという単語が響き合うからなおさら気になったんだと思う。

TAILPIECE(後半のみ引用)

This conception-perception gap provides rich material for study. I postulate an essential paradox, one that we must accept and that is not for resolution. This paradox, which is central to the concept, needs to be allowed and allowed for over a period of time in the care of each baby.

これはウィニコットの生前に編纂されたものとしては最後の論文集となる一冊。TAILPIECEはウィニコット理論のまとめみたいな文章なんだけどThis conception-perception gap とか音もいい。ウィニコットのパラドックスに対する態度は一貫していて最後のこの部分はこう訳されている。

This paradox, which is central to the concept, needs to be allowed and allowed for over a period of time in the care of each baby.

私はひとつの本質的な逆説を措定する。それは,私たちが受け容れなければならず,そして解決されるべきではない逆説である。この発想にとって中心的なこの逆説は,おのおのの赤ちゃんの世話のなかで,ある程度の期間,くりかえし許容される必要がある。

これは本当に重要な治療態度だと思う。

ウィニコットの書き方って曖昧で読みにくくて読み手を選ぶのがもったいないところだと私は思うのだけどわざとそうしてるみたいだし、臨床素材がそうなるのは仕方ないと思う。

ウィニコットが自身の死を意識する(途中病気で会えない時期もあったり)年齢になって取り組んだ2歳の女の子との精神分析的治療の記録『ピグル』THE PIGGLEの「はじめに」INTRODUCTIONでも「私は、記録をとったときのままに、曖昧な素材を曖昧なまま意図的に残しておく。」と書いてある。

I have purposely left the vague material vague, as it was for me at the time when I was taking notes.

ーD. W. Winnicott, November 22, 1965

臨床においてというか、人間関係はテキストを読むのとは異なるのでvagueであるのは前提なのではないかな。ASDの人たちの困難はその曖昧さや多義性にとどまることが難しいからというのもあるけどASDと言わなくても私たちってどうしても何か意味を固定したがるところあるよね。言葉遊びの仕方も曖昧さが好きな人と正確な意味が好きな人とでは違うと思うし。好みの問題ではないのだろうけど「そういうのが好きなんだよね」ということにすると大体のことは納得がいったりする。しない?とりあえずそう考えておくと少し楽な気がするけどそうでもないかな。

雨の音がした気がした。窓を開けてみた。やっぱり雨の跡だけ。今は降っていない。これからかな。ぼんやりと解体されていく悲しくて傷ついたような気持ち。さっき食べたりんごはちょっと不気味に赤かった。切ったら白くてちょうどいい甘酸っぱさだった。

TAILPIECE、今の私ならこのリンゴを切る途中を書くよ。実際描いたら「これは何??」って言われそうだけど🍎(←りんごの絵文字、反映されますように!)