カテゴリー
精神分析 精神分析、本

オグデンを読み始めた

昨年、邦訳が待ち望まれていた『精神分析の再発見 ー考えることと夢見ること 学ぶことと忘れること 』(藤山直樹監訳)がようやく出版された。原書名はRediscovering Psychoanalysis ーThinking and Dreaming, Learning and Forgetting。https://kaiin.hanmoto.com/bd/isbn/9784909862211

オグデンのこれまでの著作はRoutledgeのサイトで確認できる。https://www.routledge.com/search?author=Thomas%20H.%20Ogden

『精神分析の再発見』以前に邦訳されたのはおそらく2冊目の著書『こころのマトリックス ー対象関係論との対話』、4冊目『「あいだ」の空間 ー精神分析の第三主体』、5冊目『もの思いと解釈』、6冊目(かな?)『夢見の拓くところ』の4冊だと思う。つまり12の著書のうち5冊が邦訳されたことになる。未邦訳のものも翻訳作業は進行中のようでそう遠くないうちに日本語で読めそうでありがたい。

2021年12月にはThe New Library of Psychoanalysisのシリーズから新刊が出た。このシリーズはクライン派の本はすでに何冊も訳されているが、独立学派のものは昨年邦訳がでたハロルド・スチュワートの著作と、そのスチュワートが書いた『バリント入門』くらいだと思う。オグデンの最新刊はComing to Life in the Consulting Room Toward a New Analytic Sensibility

オグデンは本書でフロイトとクラインに代表される”epistemological psychoanalysis” (having to do with knowing and understanding) からビオンとウィニコットに代表される”ontological psychoanalysis” (having to do with being and becoming)への移行とその間を描写する試みをしているようだ。

この本はこれまでに発表された論文がもとになっているが、私はまずはオグデンがその仕事の初期から行ってきた”creative readings”に注目したい。読むという試みは常に私の関心の中心にある。

オグデンは『精神分析の再発見』においても「第七章 ローワルドを読む―エディプスを着想し直す」(Reading Loewald: Oedipus Reconceived.2006)と「第八章 ハロルド・サールズを読む(Reading Harold Searles.2007)とローワルド、サールズの再読を行っている。

これまで彼が行ってきた精神分析家の論文を再読する試みには

2001 Reading Winnicott.Psychoanal. Q. 70: 299-323.

2002 A new reading of the origins of object-relations theory. Int. J. Psycho-Anal. 83: 767-82.

2004 An introduction to the reading of Bion. Int. J. Psycho-Anal. 85: 285-300.

などがある。

ほかにも詩人フロストの読解などオグデンの”creative readings”、つまり「読む」仕事は精神分析実践において患者の話を聴くことと同義であり、それは夢見ることとつながっている。

オグデンの新刊”Coming to Life in the Consulting Room Toward a New Analytic Sensibility”ではウィニコットの1963、1967年の主要論文2本が取り上げられている。

Chapter 2: The Feeling of Real: On Winnicott’s “Communicating and Not Communicating Leading to a Study of Certain Opposites”

Chapter 4: Destruction Reconceived: On Winnicott’s “The Use of an Object and Relating Through Identifications”

まだ読み始めたばかりのこの本だが、50年以上前に書かれた論文がなお精神分析におけるムーヴメントにとって重要だというオグデンの考えをワクワクしながら読みたいと思う。

オグデンがウィニコットとビオンに十分に親しむ(ウィニコットの言い方でいえばplayする)なかでontological psychoanalysisをhaving to do with being and becomingと位置付け、「大きくなったらなにになりたい?」という問いを”Who (what kind of person) do you want to be now, at this moment, and what kind of person do you aspire to become?”とbeingとbe comingの問いに記述し直し、ウィニコットの”Oh God! May I be alive when I die” (Winnicott, 2016)を引用しているのを読むだけでもうすでに楽しい。

そしてすでにあるオグデンの邦訳が広く読まれ、精神分析がもつ生命力を再発見できたらきっともっと楽しい。

本当ならここでもっとオグデンについて語った方が読書案内になるのかもしれないがここは雑記帳のようなものだからこのあたりで。

そういえば中井久夫『私の日本語雑記」の文庫が出ましたよ。おすすめ!