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アンナ・フロイトの仕事とか慶応心理臨床セミナーの思い出とか。

今朝は、東京都稲城市の京王線若葉台駅から少し遠いけどかわいい「お菓子の森もみの樹」さんのマロンフィグを熱いお茶と。マロン味よりフィグ(いちじく)味のほうが強い。いちじく大好きだから嬉しいけど。

10月9日のブログでアンナ・フロイトについて書いていたはずが、子どもの精神分析の歴史になってしまった、と書いた。

アンナ・フロイトの技法論は、今日では古典的なものといえるかもしれない。長年、新訳も出ていない。しかし、初期の子どもの精神分析に関してアンナが非常に重要であることは間違いないし、彼女がフロイトの仕事を継承し、世界の精神分析を牽引する存在だったことも間違いない。

また、彼女の仕事が現在の精神分析から消えてしまったわけではない。彼女が創設した臨床・研究機関を前身とするアンナ・フロイト・センターは、メンタライゼーション研究やその臨床への応用において重要な役割を担ってきた。もちろん、アンナ自身の理論がそのまま現在のメンタライゼーション理論につながっているわけではない。何が継承され、何が変化したのかという問いは、精神分析の歴史を考えるうえで常にもっておきたい。

アンナ・フロイトの貢献は、まずは、自我心理学の発展と防衛機制の整理だろう。『自我と防衛機制』(1936)は基本文献である。しかし、その理論体系全体もそのまま継承されているわけではない。

次に重要なのは、精神分析における発達論を、発達ラインという考え方を通じて体系化したことだろうか。


「正常と異常はスペクトラムである」と、小此木啓吾先生や、馬場禮子先生、深津千賀子先生、中村留貴子先生、佐伯喜和子先生など、慶応にゆかりのある心理の先生方を中心とした、今はなき慶応心理臨床セミナーで、最初に何度も教わった。そこには、環境との相互作用や退行を含めて発達を理解する視点があった。私は慶応心理臨床セミナーで聞く話を、実践としての精神分析と思っていなかった。なんらかの違いを意識していたわけではないが、なぜかそう思っていなかった。今思うと、かなり自我心理学味の強いのセミナーだったと思うし、そういう時代だったと思う。でも、小此木先生がアンナ・フロイトなど錚々たる人たちと知り合いで、その交流の話を聞くのは楽しかった。

子どもの精神分析の技法と制度の確立も、アンナの重要な仕事だろう。慶応心理臨床セミナーでは森さち子先生が子どもの治療に関する講義を担当していたと思う。濱田庸子先生はダニエル・スターンの発達論が中心だったか。女性の先生方も多かったが、小此木味の強い集団だった。海外から帰ってくる先生方も小此木先生が引き入れた人という印象はその頃からあった。そこには登場しない先生方のことはよく知らなかった。数年後、私は実践としての精神分析に申し込んだが(始まらなかったが)、その分析家のことも、そのセミナーで知ったわけではない。セミナーというのは、内容は様々でも、だいたい同じ味付けになるのかもしれない。本とかもそうかな。この人の本にはいつもこの人が同じような賞賛を寄せている、とかしょっちゅう見るものね。お勉強はお勉強としてとても大事だけど、こことは違う世界もいっぱいあるよ、ということも同時に伝えていく必要があるのだろう。

アンナ・フロイトが単独で取り上げられたことはなかった気がする。アンナの技法については精神分析の領域でさまざまな議論があったとしても、子どもの観察、親や環境との協働、治療と教育の関係、臨床家の養成など、彼女が取り組んだ課題は現在にも引き継がれている。単にフロイトの娘ではなく、アンナから始まったことも多いだろう。

と書いていて思い出すのは、セミナーで誰かが森先生に質問をしたときのことである。それに答えたのが丸田先生だった。しかもちょっと怒っていた。それを静かに制したのが森先生だった。

小此木先生の声がでにくくなってからは森先生や貞安先生が代読した。森先生の声はいつもきれいで聞きやすかった。フロイトを代読するアンナの声はどんなだったのだろう。

1930年8月、フロイトはゲーテ賞の授賞式に出席できないこと、そして、アンナが代わりに文章を読むことを書簡に書いている。Sigmund Freud Edition ­ (FE)のウェブサイトでその手紙を確認できる。その中の一文にはこうある。

Die Festgesellschaft wird nichts dadurch verlieren, meine Tochter Anna ist gewiß angenehmer anzuziehen und anzuhören als ich.


「式典の参列者は、それによって何も失うことはないでしょう。娘のアンナは、私よりも見ていても聞いていても、きっと心地よいでしょうから。」という意味らしい。この時期のフロイトの身なりや話し方はどんなだったのだろう。

さて、アンナの発達論については、以下の文献で、MayesとCohen(1996)が現代の発達研究との関係から再評価している。彼らはアンナの発達論を、単純な段階論としてではなく、進行と退行、生物学的成熟と環境との相互作用などを含むものとして、現代の発達研究との関係から検討しているようである。

Mayes, L. C., & Cohen, D. J. (1996). Anna Freud and developmental psychoanalytic psychology. The Psychoanalytic Study of the Child, 51(1), 117–141.

ちなみに、アンナ・フロイトの仕事を現代に継承する重要な機関といえばアンナ・フロイト・センターである。アンナが創設したハムステッドの児童臨床・養成機関を前身とするアンナ・フロイト・センターは、Peter Fonagy、Mary Targetらによるメンタライゼーション研究の重要な拠点になり、現在もMBTの研究・教育・臨床家養成を行っている。メンタライゼーション理論の発展に大きく貢献したPeter Fonagyが、長年CEOを務めたアンナ・フロイト・センターとの関わりを自ら語ったインタビューもある。

Doward, J., & Hall, S. (2019, April 27). “Therapy saved a refugee child. Fifty years on, he’s leading a mental health revolution.” The Guardian.

https://www.theguardian.com/society/2019/apr/27/peter-fonagy-refugee-child-psychologist-anna-freud-centre

Fonagyは英国精神分析協会の精神分析家であり、精神分析の世界のみならず、心理臨床やメンタルヘルスの領域でも国際的に大きな影響力をもっている。メンタライゼーションが日本に導入されたのは何年、何十年前だっただろうか。野口英世記念館で行なわれたMBTに関する講義にいったことがある。今では訓練分析家である先生方も参加されていた。岡野憲一郎先生の質問が興味深かったが内容を忘れてしまった。

メンタライゼーションに関しては、ここ数年、日本でも多くの書籍がでているので、正確な情報はそちらでチェックしてみてほしい。

私が最初に読んだFonagyの本は、遠藤利彦先生と北山修先生が監訳した『愛着理論と精神分析』(誠信書房、2008)だったと思う。だから、講義に行ったのもその頃だったのだろう。原著は2001年刊行だから、もう四半世紀前の本である。それは、愛着理論と精神分析という、別々の方向に発展してきた研究を結びつけようとする仕事だった。ここ数年、日本でもMBTの公認の資格を持つ人が増えてきた。先述した通り、書籍も増えてきた。私が、慶応心理臨床セミナーにでていたのは2000年頃で、そこでなんども聞いてきたアンナ・フロイトの仕事を今になってなんとなく思い返したのは、こういう動向と無関係ではないのだろう。振り返ってみてなんとなく思うだけではあるが。

今朝は、アンナのことに触れてからヘルムートのことを詳しく書きたかったのに、もう時間がない。書き始めると色々思い出話も書いてしまうからすぐ時間切れになる。色々懐かしいなあ。当時、切れ味鋭く、精神分析の未来を語っていた先生方ももうだいぶ高齢になってきた。日本の精神分析の歴史についてもっと教えていただきたいことがたくさんある、というか、できるだけいろんな側面からご自身が体験された精神分析の歴史を残していっていただけたらと思う。

今日もそれはそれで歴史の一部。一ページまで行かなくても句読点くらいかな。句読点大事。どうぞ良い一日をお過ごしください。

Mayes, L. C., & Cohen, D. J. (1996). Anna Freud and developmental psychoanalytic psychology. The Psychoanalytic Study of the Child, 51(1), 117–141.
https://doi.org/10.1080/00797308.1996.11822424

Fonagy, P. (2001). Attachment Theory and Psychoanalysis. New York: Other Press.

フォナギー,P.(2008)『愛着理論と精神分析』遠藤利彦・北山修監訳、誠信書房。

Doward, J., & Hall, S. (2019, April 27). Therapy saved a refugee child. Fifty years on, he’s leading a mental health revolution. The Guardian.
https://www.theguardian.com/society/2019/apr/27/peter-fonagy-refugee-child-psychologist-anna-freud-centre

Freud, S. (1930). Antwort Sigm. Freuds an Dr. Alfons Paquet. Die psychoanalytische Bewegung, 2(5), 419.
Sigmund Freud Edition(デジタル版)
https://www.freudedition.net/werke/antwort-sigm-freuds-dr-alfons-paquet/druckschrift

八ヶ岳を一望できる茅野市。移動はかわいいメルヘン街道バスで。